【映画感想 1】 ミスタールーキー  信頼こそが「全と個」を活かす

 

面白いと感じたところ、また製作者の狙いを気が付く分まで書きました。

 

ミスタールーキ

 

高倉健が出演するということで観ました、王道をいくベースボール洋画。

 

・ストーリー

1 メジャーで落ちぶれたスーパースター「ジャック」は、唯一契約が取れた「内山監督」率いる中日ドラゴンズへと移籍する。

2 鳴り物入りで入団してきたジャックに待ち受けていたのは、アメリカと全く異なる日本の文化やシキタリ。アメリカ式を貫こうとするジャックの自己中心的な行動に、チームメイトは不満をあらわにする。 

3 そんなジャックはある日、聡明な女性「ヒロ子」と出会う。ヒロ子は「日本流のやりかたを受け入れて」とジャックを説得するが、ジャックは素直に受け入れることができない。

4 最初こそ試合で活躍したジャックだったが、相手チームに対策をとられると成績はあっという間に悪化。負の連鎖に追い込まれ、ついに乱闘騒ぎを起こしてしまい謹慎処分に。

5 失意のジャックは、恋い慕う中になったヒロ子に自宅へと招待される。そこに待ち受けていたのは、ヒロ子の父である内山監督だった。内山監督は我がままを付き通すジャックを猛烈に批判するが、頑固者で人の話を聞きいれようともしない内山監督もまた、ジャックと同じように「受け入れることが出来ない」人間であることをヒロ子は叱責する。

6 そしてジャックは、中日に入団したきっかけは内山監督直々の推薦であったことを知る。ジャックの実力を心から信頼していた内山監督に、ジャックは失いかけていた自信を取り戻していく。

7 ジャックは内山監督を受け入れ、入団当初はさぼりがちだった日本流の激しい練習に必死に打ち込んでいく。その姿にチームメイトは感銘を受け、ジャックを受け入れていく。そして堅物だった内山監督もまた、ジャックの「楽しい野球を」という言葉を受け入れていった。

8 ジャックの成績も復活し、現役時代の内山監督が打ち立てた大記録にあと一歩と迫ったある日、メジャーからオファーが申し込まれる。ジャックは愛するヒロ子と共にアメリカに帰ろうとするが、ヒロ子はそれを受け入れることができない。

9 そして大記録がかかった大試合。ジャックに対する不当な判定やラフプレーに選手たちは猛然と抗議。なんとしてでもジャックに記録を更新させたいという思いでチームは一つになっていた。そして記録更新の最後のチャンス。ジャックは記録よりもチームの勝利を選んだ。歓喜の渦の中、内山監督はある決意をした。

10 ヒロ子の想いを受け入れた父、内山監督に背中を押されたヒロ子はジャックと共に海を渡ることを決意。ヒロ子もまた、ジャックの想いを受け入れたのだった。

 

 

この映画には頻繁に「accept(字幕では『受け入れる』)」という言葉が出てきます。

自分勝手で異文化を受け入れようとしないジャックは、ヒロ子の言葉や愛情を受け、少しずついろんなことを受け入れていきます。

 

この「受け入れる」という言葉は、場面場面でいたるところで登場していきました。キツイ練習を受け入れる。部屋で靴を脱ぐことを受け入れる。忠告を受け入れる……。典型的な自由なアメリカ人像を彷彿とさせるジャックはなかなか受け入れることができません。

見ている人は「一体どうやったらジャックはチームのシキタリを受け入れてくれるのだろうか」と興味を引かれます。よく「全と個」という言葉は学校や会社、部活やサークルでも頻繁に耳にします。チームの事も確かに大切だけど、自分勝手にやりたいという気持ちもある。社会に属している人間ならだれしもが思うことだと思います(日本はとりわけ「和を重んじる、全体を重んじる」という風潮が昔からありましたが、むしろ最近ではジャックの様な個人主義的な考えが多いのでしょうか?)

そのなかで、「どうしても受け入れることが出来ない、だけど目的のためには受け入れなければならない」というジレンマをどうやって解消することができるのか。これが一つのミステリーとなります。

そして映画が示したトリックは、内山監督からの「信頼」でした。

 チームの「全」を背負い選手たちをガツンと言わせる内山監督が、自分自身の「個」としてジャックを評価する。この『個の気持ち』が『信頼』という意味に繋がって行ったのだろうと思います。

 

 つまり、「個」を重んじる人には「個の思い」が一番効果的なのです。

 

 そしてジャックは内山監督を受け入れ、その「受け入れる」というキーワードがまるで連鎖するようにチームに浸透していきます。チームメイトから内山監督、そしてヒロ子へと。

この作品で気に入っていることは「全を押し付けることで個性が云々」みたいなことが無かったということですね。ジャックのガムクチャとかも日本人のチームメイトも受け入れてそれをとりいれ、さらにジャックのマッチの悪戯を逆にジャックやり返してしまうという始末。大事な試合の局面でアメリカ式の応援(キャップを裏返しにするやつ)を選手たちがとると、普段は猛烈に怒る内山監督も壁をポンと叩いてこれをスルー。ジャックの考えもまた、日本式のチームは受け入れていきます。

 

チームの中でお互いにお互いを受け入れていく。そんな理想的な関係を作り出すためには何が必要なのか。それをこの映画は示してくれました。ジャックのやり方を選手たちが受け入れてくれたのは、ジャックもまた選手たちを受け入れたから。このギブアンドテイクのような関係こそが、良好なチーム作り、ひいては学校や会社作りに繋がるのではないでしょうか。

 

 良い映画でした。